旅先で古い街を散歩する時の楽しみのひとつに音を聴くというのがあります。
たとえばサッ、サッ、サッと家の前を掃き清めるほうきの音、トゥンティントゥンとどこからともなく響いてくる三線の音。うりずんのころにはメジロのさえずりがあちこちから聞こえてきます。
そして、首里儀保町の筋道にある一軒の小さなアパートからはカタカタというミシンの音が聞こえてくることがあります。
おみやげ
2016.05.01
writer : 福田展也
旅先で古い街を散歩する時の楽しみのひとつに音を聴くというのがあります。
たとえばサッ、サッ、サッと家の前を掃き清めるほうきの音、トゥンティントゥンとどこからともなく響いてくる三線の音。うりずんのころにはメジロのさえずりがあちこちから聞こえてきます。
そして、首里儀保町の筋道にある一軒の小さなアパートからはカタカタというミシンの音が聞こえてくることがあります。
沖縄を代表する伝統工芸の一つ、紅型(びんがた)にみずみずしい感性で取り組んでいるカタチキ。
キャッチフレーズは「新しいなかに、文化がかおるものづくり」。伝統を受け継ぎながらも、普段の生活にスーッと入り込むものづくりを行っている姉妹ユニットです。
時代に溶け込む紅型を生み出しているのは、地元の芸術大学で染織を専攻した崎枝由美子(さきえだ・ゆみこ)さんと、東京のアパレル業界でスタイリストのアシスタントやアパレルの販売に携わっていた當眞裕子(とうまゆうこ)さん。
首里に生まれ育ったお二人の活動の場は、首里城のふもとにある首里儀保町。復帰前に建てられた味のあるアパートの一室に工房を構え、図案おこしから染色、縫製、仕上げまで一貫して制作しています。
日々の暮らしで二人が目にする世界を図柄におこし、伝統的に使われてきた色で型染めにするのがカタチキの仕事の流儀。
例えば、工房の軒先に枝葉を広げるサルスベリや海辺で太陽を浴びてきらめく珊瑚礁、夜空に瞬く群星(むるぶし:流星群のこと)など。
そういうものを由美子さんが丁寧に染め上げて、裕子さんがミシンを駆使して、ストールやバッグや小物などに仕上げるのです。
「伝統を守っていきたいという気持ちがある一方で、同世代の女の子に日々の生活に紅型を取り入れてもらうためには、固定観念を一度は壊す必要があるんです」と由美子さん。
よくいわれることですが、現在残っている伝統がすたれることなく継承されきたのは、長い歴史の中で時代に応じて変化をしてきたからでもあります。
伝統の世界とトレンドの世界という異なる場所いた二人。カタチキをスタートしたころは、意見がよくぶつかっていたそうです。
どこを守ってどこを変えるか。2人の間にあったズレもやがて小さくなり、「今ではほとんどなくなった」とお二人はうなずき合っていました。
さて、カタチキが生み出す色は基本になる7種類の顔料を調合することで作り出されます。伝統に従っているのは色合いだけではありません。
防染にはもち粉と糠と塩を混ぜたものを使う。顔料を溶くのに昔ながらの泡盛を使う。顔料を定着させるために、一晩水に浸けておいた大豆を乳鉢ですりつぶした呉汁を使う。
師匠から受け継いだやり方をカタチキは守っているのです。
そのようにして500年前と同じ手法で丁寧に作られた布が、裕子さんがミシンを操り、新しさを感じさせるストールや、ヘアアクセやクラッチに仕立てられていきます。
数百年の伝統を受け継ぐかたくなさと、時代の空気に合わせていくしなやかさ。年々移ろっていく沖縄っぽさ。
「肩の力が抜けてきた感じがするんです」
自分が目にしているものを素直に表現できるようになったという由美子さん。
「ダサイってことは決してないんですよ。むしろ、一流といわれる職人さんが作ったものはすごくかっこいい」
若いころは表面しか知らなかったと、東京にいたころを振り返る裕子さん。
無理な背伸びも、ないものねだりもすることがない二人の姉妹のこれからが、どんな沖縄らしさとつながっていくのか今から楽しみです。
スマートポイント
ライターのおすすめ
カタチキの周辺には琉球紙の手漉琉球紙工房「蕉紙菴」や結指輪や房指輪で知られる「金細工またよし」といった伝統工芸の工房があります。どちらの工房でも自分へのごほうびや心のこもったお土産が見つかるはず。毎日ものづくりに忙しくされている方達なので、関心のある方はお電話した上で訪ねてみてはいかがでしょうか。
○蕉紙菴
沖縄県那覇市首里儀保町4-89
☎098- 885-0404
○金細工またよし
沖縄県那覇市首里石嶺町2-23-1
☎098-884-7301
福田展也
目下の趣味はサーフィン・沖縄伝統空手・養蜂。心で触れて身体で書けるようになることが10年後の目標。