絵本『やどかりの夢』の絵を担当して、日本中を飛び回っている女性が沖縄にいると聞いて、彼女が切り盛りしている小さな工房兼ショップを訪ねてみた。
「ヌーバレー」という沖縄本島でも知る人ぞ知る地域の伝統行事で知られる南城市知念地区。ヌーバレーとは「ウークイ」(お盆の最終日。先祖をお送りする日)の翌日に身寄りのない霊をグソー(あの世)に送るために地域の人々が手作りにもかかわらず、完成度の高い舞台芸能を披露し合う行事のこと。そんな文化レベルの高い知念地区の高台にある虹亀商店からはまぶしいほどの太平洋を見下ろすことができる。
おみやげ
2016.09.08
『やどかりの夢』で脚光を浴びる
虹亀商店の自由で新しい創作紅型
writer : 福田展也
海あり、山あり、宇宙あり。創作系の新しい紅型
『やどかりの夢』は沖縄に住む海の生きものを主人公に、想像力など生きていく上で欠かせない大切なものを押し付けることなく、自由に読み手が受け取れるように描いた絵本で、子どもからお年寄りまで楽しめるとあって注目を集めている。
絵本に描かれている色鮮やかな紅型の世界。描き手は沖縄に来て19年目を迎える亀谷明日香(かめがい・あすか)さん。創作系の新しい紅型を描いている元気な女性だ。
一点一点手染めをした「琉球あんどん」や、キャンバスに描いた原画をボードに張った「ファブリックボード」、Tシャツ、トートバッグ、ポーチ、手ぬぐい、ポストカードなど、幅広いアイテムが観光客だけでなく、地元の人達からも人気を集めている。
描かれているモチーフは沖縄の生きもの達。潤い溢れるやんばるの森に暮らす鳥や、梅雨時に白くて蕾のような花を咲かせる月桃や蝶。そして、虹亀商店の看板的なモチーフの海の生きものだ。
シュノーケルが大好きだという亀谷さんならではの海の世界。カラフルなテーブルサンゴに熱帯魚、さらにはマンタたちや、春先に慶良間沖に太平洋を渡ってやってくるザトウクジラなど、伝統的な紅型では考えられない自由な世界が描かれている。
バックパッカーから紅型作家へ
「都会の暮らしが合ってなかったんでしょうね」。吉祥寺生まれの亀谷明日香さんの沖縄との出合いは高校一年のこと。友人との二人旅で初めて訪れた西表などの八重山で一気に沖縄病に。それ以降は毎年2回、欠かすことなく沖縄を訪れたというから、重度の沖縄病に罹っていたことになる。
「卒業したら沖縄で暮らしたい」。移住の思いは日に日に強くなったという。高校を卒業した後沖縄県立芸術大学に入学。子どものころから絵を描くのが好きだったし、沖縄愛も十分過ぎるくらい膨らんでいたから、亀谷さんは迷うことなく紅型を学ぶことを選んだのだそうだ。
「在学中も、卒業してからも失敗ばかり」
亀谷さんは紅型工房に弟子入りせず、自分らしさと沖縄らしさを両立できる新しい紅型の世界を独学で確立しようと、もがき苦しんだのだろう。つい最近まで「自分で紅型作家といっていいのかずーっと迷ってきた」という。
「型染め作家と名乗れば、伝統のプレッシャーからは自由になれるんでしょけど、沖縄の文化も自然も人も大好きだからこそ、ここで紅型に取り組んでいるんですよ」
その言葉からは、いつか紅型作家と名乗れるようにと重ねてきた努力や葛藤がにじみ出ているようだ。
お土産にもおすすめの自由で、しかも沖縄らしい紅型アイテム
沖縄が世界に誇る紅型は伝統的な柄と色使いに支えられてきたし、伝統的な柄や色を使わないと、紅型の魅力を醸し出すことはとっても難しい。でも、もともとアーティストタイプの亀谷さんは、誰かが過去に創作した伝統柄をよそから来た自分が使うことに抵抗があったのだろう。
試行錯誤を繰り返して、ようやく自分らしく、しかも、沖縄らしい紅型の世界をなんとか表現することができるようになったという。
「沖縄の人から、『伝統的な紅型を見てきたけど、あなたの紅型を見て改めていいなあと思えたんです』といわれた時は涙が出るほどうれしかった」と亀谷さんは振り返る。
「これからやってみたいこと」をたずねてみたら「いろいろあるんですよね」という答が笑顔とともに返ってきた。例えばそれは、影絵や人形劇に沖縄音楽を組み合わせたミュージカル版『やどかりの夢』を海外で公演することだったり、『やどかりの夢』に続く絵本をたくさん手がけることだったり、大きなサイズの作品を作ることだったりするけれど、亀谷さんが一番やりたいことは、「自分の工房と工房に併設しているお店を、じっくりしっかり整えていくこと」だという。
話しているだけでこちらまで元気になってくる亀谷さん。彼女の商品や作品は日常の生活に戻っても、この島で過ごした楽しい思い出を毎日蘇らせてくれるだろう。
スマートポイント
- 絵本『やどかりの夢』(やらだ出版)は沖縄ならではのメッセージが織り込まれた作品です。お店に行く前にネットで動画(https://youtu.be/QrfZ6k7mN7w)などをチェックしておくと、お店で過ごす時間が楽しくなるはずです。また、県外での公演情報はFacebookで確認できます。
Facebookページ - お店から青い海を見渡せます。記念撮影した写真もぜひお土産に!
- 県外での展示会などで臨時休業することがありますので、事前に確認したほうがいいかもしれません。
ライターのおすすめ
虹亀商店のある南城市知念は斎場御嶽や知念城跡など聖地がたくさんあります。地元の人にとって大切な場所なので、訪れる時は十分マナーを守っていただけると、それだけ気持ち良く過ごせるはずです。
福田展也
目下の趣味はサーフィン・沖縄伝統空手・養蜂。心で触れて身体で書けるようになることが10年後の目標。
INFORMATION
スポット名 | 虹亀商店 |
---|---|
住所 | 沖縄県南城市知念吉富335-1 |
ジャンル | 紅型 |
電話番号 | 090-8293-1138 |
営業時間 | 11時〜17時 |
定休日 | 木曜・日曜 |
駐車場 | あり |
備考 | HP:http://www.k5.dion.ne.jp/~nijigame/ |