西表島最大の伝統行事である、祖納と干立地区の節祭(しち)。毎年旧暦10月前後の己亥(つちのとい)の日から3日間、去った一年間の豊作への感謝と五穀豊穣、健康と繁栄を祈願する“農民の正月”ともいわれる祭事です。メインとなるのは元日に当たる中日の「ユークイ」。お隣同士の祖納と干立両地区ですが、比べてみるとまた違う、どちらも国の重要無形文化財に指定されるだけある、歴史の重みを感じる祭事の内容。今回は干立地区のユークイをレポート致します。
季節特集
2017.01.19
[西表島]で最大の伝統行事
間近で堪能できる、干立の節祭
writer : 池田麻紀
碧い空と真っ白な浜辺にヤフヌティが映える!
干立地区へは、石垣島から西表島・上原港が便利です。上原港から15分ほどバスに揺られ干立バス停にて下車(石垣~上原港の便のみ、各船会社運行の白浜までの無料送迎バスが利用できます)。祖納の節祭の記事に書いたように、ユークイの日限定の「節祭特別乗船券(3400円)」が各船会社から発売されるので、それがお得です!祖納地区からは徒歩で15分ほど。バス停から、海に向かって静かな集落を進むとユークイ会場の干立御嶽に着きました。
ユークイの前半は干立御嶽前の浜が舞台となります。始まりは男女の演者が櫂の手を持って力強く踊る演舞「ヤフヌティ」が、厳かに奉納されました。
デンサー節チャンピオンである公民館長さんの見事な唄が浜辺に響く中、碧い海と空をバックに踊る姿は、心底感動するほど美しい風景でした。
パーリャ競漕はガーリーと一緒に応援!
干立の節祭ではパーリャ(舟漕ぎ競漕)がユークイの前半に行われました。満潮時間に合わせて行われるので、きっとお隣の祖納でも同じ時間にパーリャが行われているはずです。ニライカナイ(海の彼方)から世果報(幸せ)をもたらすために行われるというパーリャは、2槽の船で2回競われます。
男衆が船に乗り込み、ホラ貝の音の合図とともに競漕が始まりました。
1度目の競漕は神様に奉納する神事の舟漕ぎ(ウガンパーリャ)だそうです。まっすぐ沖に行って折り返します。パーリャの最中、浜辺に残った女性達は、「サーサーサーサー」とかけ声をしつつ、手招きをする「ガーリー」という舞を行い、パーリャに華を添えます。ガーリーはニライカナイから幸福を呼び寄せるという意味もある舞とのことです。
さて、1回目の勝負がつきました。先に到着した男衆達は勝利した喜びをガーリーの舞で表わします。
休む間もなく2回目は余興の意味合いのパーリャがスタート。今度は相当長い距離を競います。沖に向かい、右側にある離れ小島を周って戻ってくるコースです。
長い競争の間、女性達はひたすらガーリーを舞い、声援を送ります。子ども達も強い日差しの下、一生懸命ガーリーをします。その舞に後押しされているのでしょう、パーリャも勢いが弱まることはなく、真っすぐに進みます。
2回目の競漕もドラの音とともに終わりを告げ、参加者全員でガーリーを舞って締めくくります。皆さん、無事にパーリャを終えた喜びとお互いを労う気持ちで、心から幸せそうな笑顔でいっぱいでした。
ユークイの後半は御嶽で、奉納芸能をじっくりと観覧
さて、ユークイの儀式の後半は場所を干立御嶽に移して、奉納芸能の儀式が行われます。御嶽は相当古いと思われ、500年以上も同じ形で神事が受け継がれてきた空気感が漂っています。
御嶽内には机が並べられ、中には折箱の弁当、お酒を家族や友人らと芸能鑑賞を楽しむ地元の方々で賑わっていました。
観光客は、住民の方のテーブルとは反対側の石垣に腰をかけて観ていました。演者の待機場所近くのテント付近が目印です。かなり間近で奉納芸能が楽しめます。
ここ干立でもお土産はもちろん、節祭オリジナル泡盛を購入したいところ。やはり干立といったらオホホ様ですよね!こちらも請福酒造・八重泉酒造の2種類ありました。
来賓の皆さまや公民館長さんのあいさつで、御嶽での儀式が始まります。
500年以上受け継がれる、息を飲む奉納芸能の数々
奉納芸能の幕開けは、祭りの主役であるトゥーチとそれを囲むアンガー(女性芸人)の巻き踊りで始まりました。4名の男女のトゥーチが太鼓とドラを鳴らしながら歌い、その唄に合わせて、大勢のアンガー達が反時計回りにゆっくりと、そして粛々と演舞が行われます。
巻き踊りの最後には数名のアンガーが飛び跳ねる、ダードゥリッダーという干立地区独特の舞で締めくくります。
その次は男子芸人による狂言が行われました。力強く迫力のある演舞。しかし緊張のあまりなのか、時々台詞が飛んでしまい、年長者から突っ込まれ会場に笑いも起きる場面もあり、和やかな雰囲気でした。
ふと見ると棒術の出番待ちの小学生達が演者の台詞をつぶやいていました。幼い時から、ずっと見聞きした演舞や台詞は、子ども達の身体に染みついているのでしょう。そしていつの日か、この舞台に立ちたいという強い憧れを持って、見入っているのでしょう。こうやってここ干立の伝統は人々の熱い想いを持って受け継がれてきたのでしょう。
残念ながらここで、帰りの船の時間になりタイムアップ。後ろ髪を引かれながら、上原港へと向かいました。
干立といったらオホホ様まで見るべし!
ここで帰ってしまったのは本当に無念でした…。干立のユークイに来て、あの人に会わずに帰ったとは。
ユークイのその後、ミルク神が登場(またここのミルク神は独特な顔だそうです)。そこにあのお方、オホホ様が登場して絡み、滑稽に踊りながら、お金をばらまいてみんなの気を引こうとするとか。鼻が高く独特の顔つきや、足元がブーツという出で立ちは、西表に度々漂着した異邦人を例えたという説が有力だそうです。
確か、お隣の節祭に出てくる全身黒づくめのフダチミも異邦人という説もあるとか。ここ西表島は遠い昔、外国の船がよく漂着していたのでしょうか。
さて、おもしろいのが、オホホ様がばらまかれるお札は本当によくできている…という噂。これは子ども達と一緒に手に入れたいところですね。
オホホ様劇場が終わると、最後は獅子舞で干立のユークイは締めくくり。という流れだそうです。
皆さんは、最後まで鑑賞できるよう、日程を竹富町観光協会にて早めにチェックすることをおすすめします。干立地区には宿泊施設が何件かあるので、そのまま干立に宿泊してユークイの余韻を楽しんだり、最終日の「トゥズミ」という水恩感謝祭の儀礼まで見るのもいいですね。
スマートポイント
- 竹富町観光協会にてユークイの日程を確認するのは必須。
- 干立集落に商店はないので、前もって離島ターミナルにて食料を調達しておくか、集落内に唯一あるおそば屋さんを利用しましょう。
- 御嶽内にある小屋には演者は以外立ち入り厳禁。ミルク様やオホホ様の正体に触れる会話もご法度だそうです。
ライターのおすすめ
祖納地区同様、歴史ある厳粛な祭事なので、邪魔にならないように配慮して観覧し、地元の方の指示に従いましょう。御嶽の奉納芸能の時は早めに舞台近くに場所をキープしておくと、間近で迫力ある演舞が楽しめます。そしてミルク様とオホホ様が登場する、ユークイの終盤までは必ず観覧することをおすすめします!
池田麻紀
三児の母。アロマ屋さん。島の小さな手作り市「ぬちぐすい市」を主催。