全身泥まみれの神様が集落内を練り歩く
宮古島の国の重要無形民俗文化財であるパーントゥ・プナハ。
泥塗りの神様のいでたちの異様さに誰もが言葉を失ってしまいます。
クバの葉に包まれて島に流れてきたいい伝えられる仮面、
ンマリガーと呼ばれる井戸の底から取った泥が塗りたくられた体には、キャーンと呼ばれるつる草を巻き付けられています。
そして、ドロドロの3体の神様が容赦なく泥を塗りたくって歩き回ります。
恐れおののきと、怖いもの見たさとが渦巻く中、
宮古島の島尻地区で行われる奇祭、パーントゥ・プナハで、
泥塗りの優しい神様に出会ってきました。
観光
2016.02.09
[宮古島]パーントゥ・プナハ
全身泥まみれの来訪神に出会う
writer : 砂川葉子
パーントゥが生まれるンマリ
港から吹き上げるような海風はひんやりとしていて、
空にはグレイの雲が垂れ込め、秋の気配を感じる夕暮れ時、
パーントゥが生まれる「ンマリガー」の近くには、
多くの人が集まり始めています。
パーントゥに泥を塗られるであろうことを想定して、
毎年取材に訪れるという地元のカメラマンさんは、
ごみ袋でカメラをカバーをしているし、
ちゃっかりレインコートを来た観光客もいます。
地元の子ども達はパーントゥが楽しみなようで、
待ちきれないのか、そこいらじゅうを裸足で駆け回り、
パーントゥの登場を今か今かと待ちかまえています。
来た来た!パーントゥ来た!
子ども達の声に一気に周りが騒がしくなりました。
3体のパーントゥが一歩ずつこちらに向かって歩いてきています。
突然、1体のパーントゥが走り出すと、
人々は雲の子を散らすように逃げまといますが、
あっという間に観光客らしき女性が捕まり、
パーントゥに泥を塗られてしまいました。
パーントゥにつかまり、泥だらけに!
この時、現地ライターの砂川は、そんな場面を茫然と見つめていました。
つまり、怖くて動けず完璧に逃げ遅れていたわけです。
つっと、私の目の前を音もなくパーントゥが横切ったその瞬間、
パーントゥはくるりと向きを変えると、ぐわっしぃ~と覆いかぶさっていました。
目の前が真っ暗になったかと思うと、
そのまま地面にくるんとひっくり返され、
顔にべろ~んと泥を塗りたくられてしまいました~。
あっという間の一瞬の出来事に声も出ず、放心状態の砂川さんです。
見事に顔中泥まみれ。
顔だけじゃない、足から腕から、かばんも服も、カメラも泥まみれ。
恐らく口もぽかーんと開いていたのでしょうねえ、
歯にまで泥がついて、口の中までも泥まみれです。
「いい顔してるな」地元のおじさんが私を見て笑っていいました。
泥を塗られれば、笑顔になるパーントゥ
島尻集落内の通りは、絶叫と泣き声と笑い声とで溢れかえっています。
パーントゥは逃げまとう子ども達に追いつき、泥をぬりたくります。
大人だって、おじさんだって、観光客だって、パーントゥは容赦なしです。
とにかくみんな泥にまみれていきます。こちらは家族全員泥まみれ。
飲み会の最中にパーントゥが現れ泥を塗られたようですが、
パーントゥが去った後も、このまま飲み会は続行中です。
小さな赤ちゃんのお顔にも、泥が。
お母さんに話を聞くと、ちょんと、優しくつけてくれたようでまったく泣かなかったそうです。
「これでこの1年は元気で過ごせます。」
と笑顔で話すお母さんの顔にも泥がべったり。
そう、泥を塗られることにご利益があるのです。
パーントゥに泥を塗られることで、一年間無病息災でいられるといわれており、また厄除けの意味もあり、新築の家や新車にも泥が塗られます。
パーントゥ・プナハは、泥を塗られ喜び笑顔になる何とも不思議な祭り
です。
パーントゥの苦悩、祭祀と観光
実はパーントゥ・プナハでは地元住民を悩ませる事態があります。
服が汚された、抱きつかれた、と苦情が寄せられ、
更にはパーントゥに泥を塗られたことに怒り、
パーントゥに暴行するということがかつてあったのです。
こうしたことから、自治体では日程は直前まで知らせないことや、パーントゥの周りには2、3人のSPを置くことで、
トラブルを未然に防ぐ工夫をしています。
集落の入り口に置かれた車にもこのような張り紙がありました。
パーントゥは、遊園地のアトラクションでもなければ、
寄せ物でも見世物でもないのです。
パーントゥ・プナハの前日には「スマッサリ」という集落内に魔物が入ってこないようにと結界が張られる行事が行われます。
パーントゥ・プナハは島人にとって、れっきとした神事であることを心にとめて、島の人のためのお祭りに敬意の思いを持って、参加してもらえたらと願います。
パーントゥの残り香を追って、後日談。
夜のとばりが降りるころ、闇が深くなるにつれ人出は増していき、
暗闇に同化するようにパーンゥは走り、泥を塗ります。
そして、夜8時。スピーカーから終了のアナウンスが集落内に響き、
パーントゥは闇の中に消えて行きました。
家路についてシャワーを浴びていると、ふと泥の匂いが鼻につきました。
周囲から聞かされていたほど臭くないと思っていた匂いが、いま初めて異質に感じた瞬間でした。鼻をフンとかんだら、鼻水と一緒に泥が出てきてちょっと苦笑いをしてしまいました。
耳の中からも泥。
残り香を感じる度に思い出されるパーントゥの姿、それを追うように後日島尻地区を訪れてみると、島尻漁港にはこんなレンタカーが停まっていま
した。
この時に出会った島尻地区の青年にパーントゥは何であるか聞いてみると、
「パーントゥは、みんなに福をあげたいわけさ」と笑っていってました。
泥塗りの神様がくれる泥まみれの福は、みんなを笑顔にしてくれます。
スマートポイント
- パーントゥは、島尻自治会の方針で事前に日程は告知されません。見れたらラッキーと思ってくださいね。
- パーンゥ・プナハは、汚れることを覚悟で行きましょう。そして、地元の方への配慮とパーントゥへの敬意の気持ちをお忘れなく。
- 島尻集落内の島尻購買店では、パーントゥのグッズも販売されています。
ライターのおすすめ
パーントゥに行く予定がある、と地元の友に話すと、口をそろえて、パーントゥの泥の臭さや大変な目にあった話をとくと聞かされました。確かに泥は臭かったけど、素敵な神様でした。
砂川葉子
岐阜県出身、宮古島諸島のどこかの小さな島に在住。農業と民宿業、島興し業と並行してライター業にも携わる。