洞窟の奥底、地下深くに湧き水が溢れるこの地を旧城辺町の友利のあま井(ともりのあまがー)といいます。
旧城辺町の友利地区、砂川地区、新里元島地区の生活を支え、命をつないできた場所で、県指定有形民俗文化財にも指定されています。
友利出身で、小学3年生から友利のあま井で水を汲んだという源川サダさんにお話を聞かせてもらったところ、どんなに好きになった人でも、相手がこの地の者だと知ると誰もが嫁ぐのを嫌がるほど、あま井からの水汲みの苦しさは知られていたそうです。ここ友利地区に生まれ、この土地の人の元に嫁いだサダさんは、地下深くから溢れれる湧き水を汲むために、洞窟の中の石段を何度も行き来したといいます。
島の命をつないできたガーを訪ね歩く島旅、その2回目に訪れた友利のあま井で、先人達の足跡が未来への道標として残っているのを見ました。
観光
2017.01.11
[宮古島]命の水を巡る島旅②
足跡光る道標・友利のあま井
writer : 砂川葉子
友利あま井へ、洞窟の奥へ続く細い細い石段の道
少し小高いこの場所からは、さとうきび畑が見わたせ、遠くには青い水平線をのぞんでいます。
海からの南風にサトウキビ畑がそよぎ、頭上では鳥達がさえずり、遠くからかすかに波音が聞こえてきます。
そんな牧歌的な光景の中、ひっそりと友利のあま井(あまがー)はありました。
小さな入り口からまっすぐ伸びるひと筋の細い道は、鍾乳石が垂れ下がる自然洞の中へと伸びています。石段がほどこされ、腰の高さより低い手すりが続き、奥へとゆっくりと下っていきます。その手すりには、手形が残されていました。
人一人が通るのに精一杯の道のカーブごとに小さなくぼみがあります。ここで道を譲りあったり、ひと息入れながら、人々は水辺へと行き交っていたのかもしれません。
一歩降りるごとに薄暗くなっていく空間、奥へ奥へと降りていくほどに、空気が変わっていくようです。そして、まるで時が停まってしまったかように静かです。
ポンプ後と手すりの石積みから感じるあま井の歴史
下りていく途中、見上げて気づいたのですが、入り口近くの手すりを見てみると細かな石が緻密に積みあげられています。
ひょっとしたら、ここは手すりがない時代もあったのかもしれません。この暗がりの中、水ガメを頭にのせ、命がけで行き来していたのかと思うと、足元がすくむ思いがします。
地底にたどり着く手前には、四角い箱の様なコンクリートで作られた物体やポンプやホースが無造作に置かれています。これは昭和30年に開設されたあま井を水源とした友利・砂川簡易水道の名残りで、ここからポンプを利用し水を汲み上げ、住民に給水されていました。それによりやっと、この地へ足を運び、階段を降り、水甕を頭にのせ、運ぶ生活から解放されたのです。そして、昭和39年の宮古島における全面水道普及に伴い、このポンプ小屋も使われなくなりました。
木洩れ日に光る洞穴の石段
おぼつかない足取りでやっとでたどり着いたその場所は、水の深さも色もわからぬほど、真っ暗でした。洞穴から光は差し込んでいますが、水面までは届いていません。
昔はコンクリートの囲いもなかったと聞きます。昼間でも足元さえ見えぬこの暗闇の中で、いったい、どんな風に水を汲み上げたのでしょうか?
サダさんによると、ここはインギャーマリンガーデンとつながっており、潮の満ち引きで水の深さが違っていたそうです。「いつも友達と助け合いながら水を汲み合ったさあ」とお話しくださいました。幼い少女が膝まづき、手探りで、勘を頼り、友達と助け合いながら水を汲み、家路に向かう、そんな毎日を想像しながら振り返った時、洞窟の入り口から降り注ぐ光によって足元の階段の所々が光っているのに気づきました。
座り込み、その部分を触れてみると、つるりとした手触りにはっとさせられました。
友利あま井の未来への道しるべ
命の水を巡る島旅の第1回目で訪ねた来間ガーで、一緒に訪れた玉城千代さん(88歳)が、「昔はピカピカと光っていたけど、今は錆びているねえ」と呟いたのを思い出しました。
地の底の様な、この場所で、点々と続く光は上へ上へと伸びていきます。水をこぼさぬようにぐっと力を込め足を踏ん張り、一日に何度も何度も人が行き来するうちに磨り減り、やがてわずかな光をも照り返すまでに摩耗していったのでしょう。友利のあま井で水を汲んだ先人達は、この光る足跡をたどるように一歩ずつ、力を振り絞り石段を登ったのです。入り口から差し込むその光の先に、家族の顔や今日のご飯や、未来を描いて。先人達が踏みしめた足跡は光り、道標となり、この場所を訪れる人々に、子々孫々に、友利のあま井の歴史を伝えていくでしょう。
スマートポイント
- 友利のあま井(ともりあまがー)は、旧城辺町の友利にある自然の洞窟の中にある井戸で、今も豊富に水を堪えています。
- 友利のあま井は県指定有形民俗文化財です。
- 友利のあま井の近くには、ウィピャーヤマ遺跡などの史跡が多く点在し、併せて観光するとより歴史的にも理解が深まります。
ライターのおすすめ
前回の来間ガーに続いて、第2回目となった井戸巡り。井戸は本当に様々なメッセージをくれます。
砂川葉子
岐阜県出身、宮古島諸島のどこかの小さな島に在住。農業と民宿業、島興し業と並行してライター業にも携わる。