伊良部島のサバウツガーから見渡す雄大な眺めは、昔も今もここに立つ人々の心を打ちます。
どこまでも広がるコバルトブルーの海の向こうに見える島影は、この地に生きる人々の思いを支えつないできました。
伊良部島の佐良浜は、池間島からの分村として栄え、今も漁師町として名高い地区です。ここに生きる人々の命の源となったのが、サバウツガーです。そして、佐良浜地区の人々の思いを支えつないできたのが、サバウツガーから望む池間島の姿でした。
命の水を巡る島旅の5回目に尋ねたサバウツガーは、まさに伊良部島の佐良浜地区の歴史の始まり・命の始まりともいえる名所でした。
観光
2017.07.30
[伊良部島]命の水を巡る島旅⑤
サバウツガーと故郷を繋ぐ絶景
writer : 砂川葉子
断崖絶壁の階段を降りサバウツガーへ
伊良部島の佐良浜漁港からの急坂を上った先、Aコープさらはま店がある四つ角を右折した400mほど先にサバウツガーはあります。
駐車場から降りてすぐの広場からの眺めはまさに絶景。
どこまでも広がる青のグラデーション、遠くに見える島影は宮古島、そして池間大橋に池間島まで見渡せます。
駐車場のベンチで、ひと息ついてからサバウツガーに向かうとしましょう。この遥か下に見える海岸にあるサバウツガーへは、断崖にそって崖下まで伸びる124段の石段を降りねばなりません。
伊良部島の佐良浜地区の人々は、簡易水道が完備される昭和39年まで、240年間もの間、水を求めて、何度もこの階段を行き来したといいます。
私は手すりを頼りにしなければ、上り下りもままならない状態です。
それでも波音と海風に誘われるように、ふと顔を上げた時に見える、その美しい海に幾度も心を打たれながら石段を降りていきます。
サバウツガーの歴史・昔も今も…
サバウツガーは、「ミャーギ立の金大主(ミャーギダティノカニウフシュー)」と「フッス゜ゥの松大主(フッス゜ゥノマツウフシュー)」という二人の若者が、この場所を探し当てたといわれています。
名前の由来には諸説あり、ある地元男性は伊良部島では鮫を「サバ」といい、このあたりにはサバが多かったからとお話しくださいました。また、入り口の石碑にある通り、沖から見ると鮫の口の形に似ているからという説もあります。
海岸から高く盛られた場所に、石積みの井戸はあります。緻密な石積みからは当時の石工技術が感じられますが、水は枯れていました。
しかしながら、サバウツガーへの石段は今なお現役です。3月のある日に訪れてみると、潮干狩りを楽しむ人々が石段を行き来し、浜辺からは楽し気な声が響いていました。
佐良浜出身のある女性に聞くと、「ここはうちらが子どものころは遊び場だったさあ」と楽し気な顔を見せてくれました。
サバウツガーから見る池間島、故郷への思い
サバウツガーは、佐良浜の人達にとっては、故郷である池間島を、自身のルーツを強く感じられる場所なのです。
時は1720年、池間島ではこれ以上人が住めなくなったため、伊良部島の佐良浜地区に強制移住させられます。すでに、伊良部島の南区には集落があったため北側への移住を余儀なくされますが、この地は南区とは違って水に乏しい場所でした。しかし、池間民族の分村として誇り高くこの地を切り開き生き抜いていきます。
そんな人々の命の源となったのがこのサバウツガーです。
当時の人々は、ここから望む故郷の島の姿に何度思いを馳せたことでしょうか?
苦難の歴史を乗り越え、佐良浜はカツオ漁の地、そして唯一アギャー漁と呼ばれる伝統が残る地区として栄えてきました。
サバウツガー周辺の絶景スポット、サバ沖公園展望施設
この周辺でのお立ち寄りスポットは、サバ沖公園展望施設です。断崖に立つ東屋はサバウツガーの駐車場から見えています。
ただし、いきなり正面にお墓がずらりと並んでいるため、なんとなく入っていいものなのか、ちょっとためらう空気感もありますが、絶景と涼を求めて勇気を出して行ってみましょう。東屋はひんやりと涼しく、トイレもあり、何より眺めも良いのでひと息つくのにもってこいです。
宮古島も伊良部島も、風光明媚な展望の名所がいくつもありますが、そのほとんどが駐車場から遠かったり、長い階段があったりで、小さなお子様連れや高齢者には利用しづらさもあります。ここサバ沖公園展望施設は、駐車場から東屋まで近いのもうれしいポイントです。
ここからもまた遠くに見える池間島に思いを馳せずにはいられません。
サバウツガー、そしてサバ沖公園施設は故郷を思い、生き抜いた人々の歴史と、屈強な精神と、絶景に出合える名所です。
スマートポイント
- サバウツガーのある伊良部島の佐良浜地区は、旧正月や海神祭(ハーリー)、ミャークヅツなど伝統的な行事が数多く残り、歴史深い漁師町です。
- 伊良部島で雄大で風光明媚な眺めを楽しむなら、牧山展望台やフナウサギバナタ展望台もおすすめします。
- カー(ガー)とは、宮古島の言葉で井戸のことで、水事情が厳しい島の生活を支えてきました。宮古島では市内中心地の大和井(ヤマトガー)が国の史跡に指定されています。
ライターのおすすめ
第一回で紹介した来間ガーもやはり断崖絶壁の石段を下りた先に井戸がありました。そして、必ず苦しいばかりでない楽しい思い出もありました、サバウツガーもそうでした。それを飄々と話す島人にいつも憧れます。
砂川葉子
岐阜県出身、宮古島諸島のどこかの小さな島に在住。農業と民宿業、島興し業と並行してライター業にも携わる。