宮古島には「降り井(ウリガー)」と呼ばれる井戸がいくつかあります。
その名の通り、地上から下へ下へ、地底へと降りていった場所に湧水があり、これも宮古島独特の地形が故の井戸といえるでしょう。
宮古島は琉球石灰岩が隆起してできた島で、琉球石灰岩は水に溶けやすい性質があります。雨水などに浸食され、地中に空洞ができ、空洞の天井部が崩れ落ちると窪地ができます。これを陥没ドリーネといいます。
盛加ガー(ムイカガー)は、まさに気が遠くなるくらい長き年月をかけて作られた陥没ドリーネの底にある井戸、洞窟の中の井戸という意味で洞井(どうい)とも呼ばれています。
市内中心部で最も大きな降り井で、内部では貝塚層も発見された歴史深い井戸である盛加ガー(ムイカガー)を命の水を巡る島旅の第4回目に訪れました。
観光
2017.08.04
[宮古島]命の水を巡る島旅④
緑深き盛加ガー(ムイカガー)
writer : 砂川葉子
住宅街のど真ん中に突然現れた、盛加ガー(ムイカガー)
宮古島中心部の住宅街、そこに忽然と盛加ガー(ムイカガー)はあります。
通りからわきに一本入ったその空間は、石畳の道が続き、旺盛な緑に囲まれており、雰囲気がガラリと変わります。
盛加ガー(ムイカガー)の入り口は、今にも雑草に覆い尽くされようとしていました。手入れがされぬまま、時間だけが流れていき、時代に取り残されたようなその空間が悲し気に見えます。上から下を覗き込むだけでも、ちょっと気後れしてしまいます。
シダ類が覆い尽くし、木々の向こうにポッカりと見える空間は暗く、この旺盛な草木をかき分けて中に入っていくには、かなり勇気が必要です。
でも、気持ちを奮い立たせて石段を降りていくと、行けば行くほどに亜熱帯の緑の力強さを感じさせられ、包まれていくような不思議な感覚に出合えます。
亜熱帯の緑が広がる洞窟と澄み切った湧き水
盛加ガー(ムイカガー)は、地下にもかかわらず、まるで森の中にいるかのような美しい緑と、光と水の世界が広がっています。
石段を覆い尽くすように広がっている亜熱帯植物群達は、光が届くギリギリまで繁殖し、上へと葉を広げています。
ゴツゴツとした鍾乳石の壁にもシダ類が根を下ろし、盛加ガー(ムイカガー)の独特な景観を生み出しています。そして、開口部を見上げると、改めてここが地下であり、洞窟の中であり、ここが広く陥没した場所であることがよくわかります。
螺旋を描きながら石段が続き、開口部からの木洩れ日も徐々に遠のいていき、あたりは少しずつ薄暗くなっていきます。足元に目をこらしながら、いよいよ底まで行きつくと、そこはまさに地底のような空間。光が届かぬ闇の中、澄み切った水が静かに満ちていました。
盛加ガー(ムイカガー)周辺を歩いて、宮古島の歴史を感じる
地上に戻って改めて周りを見渡せば、ここを取り囲むように家々の屋根が連なり、マンションがそびえ立ち、遠くには鉄塔も見えます。
足元の石畳、御嶽、屋敷の跡地を囲う石積みは、旺盛な亜熱帯のグリーンと近代文明に埋もれながらもしっかりと息づいています。
盛加ガー(ムイカガー)には、駐車場がないため徒歩でのアクセスになります。この周辺は歴史深いスポットも多く、歩いて散策するのもおすすめです。盛加ガー(ムイカガー)のように、住宅街や細い路地の向こうに突然と現れる文化財や御嶽、歴史名高いスポットに驚かされるはず。
盛加ガー(ムイカガー)を訪ねてみれば、水のある所から始まった人々の営みが、今も脈々と続いているのが感じられます。
スマートポイント
ライターのおすすめ
盛加ガーは、住宅街に突然と現れるその空間の不思議さと亜熱帯の緑の美しさに心奪われるスポットです。光が途切れる一瞬まで背を伸ばす草木、とその先の闇、そして闇の中にたえた水、そんな世界が待っています。
砂川葉子
岐阜県出身、宮古島諸島のどこかの小さな島に在住。農業と民宿業、島興し業と並行してライター業にも携わる。